映画『グリーンブック』、観終わった後のあの胸が熱くなるような感動は、本当に特別なものですよね。特にラストの演奏シーンは、トニーとシャーリー博士が築き上げた友情の集大成のようで、思わず涙がこぼれた方も多いのではないでしょうか。
そして、その圧巻のピアノ演奏を目の当たりにして、きっとこう思ったはずです。
「あの圧巻のピアノ演奏、もしかして主演のマハーシャラ・アリ本人が…?」
映画を見終わったその足で、スマホを片手にその答えを探してしまったあなたのための記事です。
ご安心ください。この記事を読めば、その疑問が5秒で解決するだけでなく、あの名シーンが生まれた裏側にある俳優の努力と制作陣の工夫を知り、きっとこの作品がもっと好きになります。
[著者情報]
サイトウ マコト / 映画音楽ライター
音楽雑誌の編集者として10年間、数々の映画音楽レビューや作曲家へのインタビューを担当。現在はフリーのライターとして、映画の感動を「音楽」という切り口からさらに深めるための情報を発信している。
「映画の感動を、裏側のストーリーでさらに深める案内人」として、専門用語は使わず、あなたの「なぜ?」に寄り添い、一緒に感動の源泉を探しに行きます。
【結論】『グリーンブック』のピアノ演奏、実際に弾いたのは誰?
早速、皆さんが最も知りたいであろう結論からお伝えします。
- 主演のマハーシャラ・アリは、スクリーンに流れている音を弾いていません。
- 実際の演奏を担当したのは、この映画の音楽監督であり、天才作曲家でもあるクリス・バワーズさんです。
つまり、あの美しい音色は、プロのピアニストによるものだった、というのが答えです。
しかし、「なんだ、やっぱり弾き真似だったのか」とがっかりするのはまだ早いです。マハーシャラ・アリもこの役のために血のにじむような努力を重ねており、その事実こそが、この映画の感動をさらに深いものにしています。
では、どう撮った?主演俳優の“執念”と撮影の裏側にある3つの秘密
「じゃあ、どうやってあんなにリアルな演奏シーンを撮影したの?」
その疑問を解き明かす鍵は、制作陣が仕掛けた3つの秘密に隠されています。
秘密①:俳優マハーシャラ・アリの猛特訓
マハーシャラ・アリは、この役のオファーを受けた時点ではピアノを全く弾けませんでした。しかし、彼は実在した天才ピアニスト、ドン・シャーリーを演じる上で、指の動きや姿勢、鍵盤への体重のかけ方といった「ピアニストの魂」を完全に自分のものにする必要があると考えました。
そのために、撮影が始まる3ヶ月前から、実際の演奏を担当したクリス・バワーズさんをコーチに迎え、毎日何時間もピアノの猛特訓に励んだのです。
秘密②:「手の代役」を務めた天才の指先
リアルな演奏シーンを実現するため、マハーシャラ・アリが「演者」として、そしてクリス・バワーズが「演奏者」として、二人三脚でドン・シャーリーという一人の人物を創り上げるという協力体制が敷かれました。
具体的には、複雑な演奏が求められるシーンでは、クリス・バワーズさん自身がアリさんの「ボディダブル(手の代役)」として撮影に参加しています。
(マハーシャラ・アリは)本当に習得が早い生徒だった。私が最初に教えたハ長調のスケールを、彼は3時間も弾き続けていたんだ。出典: Bowers Explores Shirley's Work for Film 'Green Book' - DownBeat Magazine
このクリス・バワーズさんの言葉からも、アリさんがいかに真剣に役作りに取り組んでいたかが伝わってきますね。
秘密③:アナログとデジタルを融合したVFX技術
さらに、リアリティを追求するための最後の仕上げとして、最新のVFX(視覚効果)技術が使われました。
「手の代役」というアナログな手法と、「デジタル合成」という最新技術。この二つが組み合わさることで、マハーシャラ・アリの表情の演技と、クリス・バワーズの指の演技が完璧に融合され、あの奇跡のような演奏シーンが完成したのです。
演奏の舞台裏を支えた2人の天才:ドン・シャーリーとクリス・バワーズ
この映画の音楽がなぜこれほどまでに私たちの心を打つのか。それは、この作品が2人の天才ピアニストの才能の上に成り立っているからです。
ドン・シャーリーとは?
この映画『グリーンブック』が題材としているドン・シャーリーは、1950年代から60年代にかけて活躍した実在のピアニストです。彼はクラシックの超絶技巧を持ちながら、ジャズやポピュラー音楽の要素を取り入れた独自のスタイルで知られていました。彼の音楽は非常に複雑で、プロの音楽家たちからも「孤高の天才」として尊敬されていました。
クリス・バワーズとは?
そして、モデルとなったドン・シャーリーの音楽を、現代の観客の心に響かせるという大役を担ったのが、再現者であるクリス・バワーズさんです。彼はジュリアード音楽院で学んだエリートでありながら、ジャズやヒップホップの分野でも活躍する現代の天才です。彼がいたからこそ、ドン・シャーリーの魂はスクリーン上で見事に蘇ったのです。
まとめ:結論だけじゃない、制作の裏側を知ると『グリーンブック』はもっと面白い
この記事のポイントを最後にもう一度おさらいしましょう。
- 『グリーンブック』のピアノ演奏は、作曲家のクリス・バワーズが担当した。
- しかし、主演のマハーシャラ・アリも3ヶ月間の猛特訓でピアニストの動きを完璧にマスターした。
- リアルな映像は、「手の代役」と「VFX技術」を組み合わせることで生み出された。
「俳優が本当に弾いているか」という事実を知るだけでなく、その裏側にある俳優の執念、それを支えた本物の音楽家の才能、そして制作陣のこだわりに触れることで、作品への理解は格段に深まります。
この裏話を知った上で、もう一度あのラストシーンを観ると、シャーリー博士が奏でる一音一音に、マハーシャラ・アリとクリス・バワーズ、二人の魂が込められているように感じられるはずです。きっと、初回とは違う新たな感動が、あなたの心を待っていますよ。
『グリーンブック』は各種配信サービスで視聴可能です。ぜひ、制作陣のこだわりに注目してもう一度ご覧ください。
[参考文献リスト]
- DownBeat Magazine, "Bowers Explores Shirley's Work for Film 'Green Book'"
- The Hollywood Reporter, "'Green Book' Composer Kris Bowers: From Mid-City to The White House | Magic Hour" (YouTube)